「僕たちにはケルト人の魂がある。ここにあるものは全部幻だ」
「ウォルトディズニーの約束」を見た。映画「メリー・ポピンズ」の制作秘話。原作者P.L.トラヴァースとウォルト・ディズニーによる、許しの物語。
「メリー・ポピンズ」は僕の大好きな作品だ。これと「チキチキ・バンバン」、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」、「サウンド・オブ・ミュージック」が子供の僕にミュージカルの楽しさを教えてくれた。その「メリー・ポピンズ」にまつわる話となれば、何を差し置いてでも見に行かざるを得ない。
なにより、その大きな魅力である歌やアニメーションに対して原作者が否定的だという構図は興味をそそる。ウォルト・ディズニーがこの一見してわかるほど気難しそうな女性をどう説得するのか、実にワクワクしながら見に行った。
そして、衝撃である。結局、ウォルト・ディズニーは彼女を説得できなかった。同じ経験をした自分を「信じてくれ」と言う事しか出来なかったのだ。
そこに、この映画の妙がある。
P.L.トラヴァースは最後まで、映画「メリー・ポピンズ」に諸手を挙げて賛成する事はない。それでも、彼女はきっとこの映画を気に入ったのだろう。完成披露での涙は、決して「アニメが酷かったから」だけじゃないはずだ。まあ本当にそうも思っていたかも知れないが。皮肉屋で、傲慢で、素直じゃない。実に古き英国人らしい人物像だ。
そしてまたこの邦題が憎い。ウォルト・ディズニーの約束。ウォルト・ディズニーは何を「約束」したのか? その一つの答えが原題「Saving Mr.Banks」なのだ。邦題を誰がつけたか知らないが、良いセンスをしている。原題もとても素晴らしいが、日本人には「バンクス氏」と言われてもイマイチピンとこないだろうし、意訳にも限度がある。一方で、ウォルト・ディズニーを知らない日本人はほとんどいない。邦題で足を運び、作品を見て、そして原題に立ち返る。これならば、きっと「メリー・ポピンズ」を知らない人にだって、両作品の素晴らしさが伝わる事だろう。
「メリー・ポピンズ」を見た事がある人は、是非見に行くべきだ。「メリー・ポピンズ」を見た事がない人は、まず「メリー・ポピンズ」を見てから、見に行ってほしい。
そして、いずれにしてもこの映画を見終わった後は「メリー・ポピンズ」が見たくなるのだ。僕は雨が上がったらビデオ屋さんに行く。