「お前のような了見のもんに、本物のもののけが見えてたまるかよ」
杉浦日向子のコミックをアニメーション映画化した原恵一監督の「百日紅」を見て来た。
絵は良いが話が悪い。音は良いがセリフが悪い。シーンシーン単体ではこれは、と思うところも確かにある。だが、通して見ていて苦痛。そんな映画だった。もう本当に声優がひどい。音響だか演技指導だかは何をしていたのか。聞いていて違和感が無かったのは男娼と、まけても善次郎ぐらいのものだった。
がっかりである。僕は二週間ほど前に原作コミックを本屋で発見し、購入してそのまま読んだ。大変楽しく読んだのである。当然、この映画にも胸を膨らませ、期待を大にして劇場まで足を運んだ。そのわくわくは最初の十分ほどでしぼみ、途中からは帰りたいとすら思った。それほどに期待はずれの、「つまらない」映画であった。
まずエピソードのチョイスがひどい。何故真っ先に龍の話を持って来たのか。あのエピソードは北斎とお栄の関係や、お栄の力量をある程度見ている人間に伝えてからやるべきものだ。ただあれを見せられたんじゃなんの面白みも無いわ。ただ単にアホな娘が絵を台無しにしただけのことになってしまう。いや勿論それは間違っていないし、事実そういう話なのだが、しかしそれだけではない。それだけで終わらせないだけの面白みがある話を、ただ間抜けなものに仕立て上げている。がっかりだ。
次に、エピソードからエピソードへの転換がひどい。ただの場面転換なのか、次のエピソードに移ったのかがさっぱりわからん。二つの転換に何の違いも無いからだ。それでいて季節は動くわ着ている服は変わるわ、見ていて混乱する事甚だしい。しかも複数のエピソードを切ったり貼ったりして無理矢理な繋ぎ方をしやがる。どういう基準でエピソードを選び出したのか問い詰めたいものだ。
この映画は全てがひどい、というものではない。エレキギター(だろうか。楽器には疎いのでこれと断定する事はできないが)とともに江戸を映す開幕は非常に良かったし、橋をくぐるシーンや黒雲の中にうごめく龍、ススキ野原を駆けていく両手など、絵や動きは見ていて面白い。見所となるシーンはいくつもある。だが、それと糞のような脚本だかセリフだかが同居する。声優陣も聞いてて違和感を覚える。話もわけのわからん切り方繋ぎ方選び方をする。悪い点が多すぎた。
なので、僕と声やキャラクター造形の好みが異なるという人は楽しめるかもしれない。その点に関しては保証はしない。
冒頭の龍のエピソードについてですが、私は原作未読のまま鑑賞しましたが、北斎とお栄の関係、絵師としての力量は十分に伝わりましたし、そのための構成だと思うのですが。